V.T.R
「ゼロ・ハチ・ゼロ・ナナ」以来の待望の新作。
辻村さんはデビュー作「冷たい校舎の時は止まる」が世に出たときからずっと好きな作家だ。
新作が出るたびに即購入する数少ない作家の一人。
そんなデビューから見守ってきた辻村さんだが、前作「ゼロ・ハチ・ゼロ・ナナ」で
ついに、直木賞の候補作に選出された。
そのニュースを見たとき、そらもう驚いた。
「大きくなったな〜」と。
なんか身近に感じてた作品が一気に遠くに行ってしまったような感じ。
まぁ、残念なことに受賞はできませんでしたが。
そんな大注目の中、発売された新作です。
しかし、カバー絵から見ても今までとまったく違う印象。
それもそのはず。
この作品は、「チヨダ・コーキ」名義で書かれた作品。
チヨダ・コーキ
辻村ファンなら知らない人はいない、
同氏の作品「スロウハイツの神様」の登場人物の一人で、中高生にカリスマ的な人気を誇る作家。
そのチヨダ・コーキのデビュー作と銘打っている、この「V.T.R」は、スロウハイツの神様のスピンアウト作品なのである。
読んだ感想としては、
辻村さんらしさがあまり感じない。
確かに、他の作品と同じように、複線の張り方や最後の仕掛けは用意されているが、
そこに至るまでの雰囲気が異なる。
これは・・・チヨダ・コーキの文章ということだからなのか?
だとしたら、スゴイ。
「中高生に人気」って感じがよく出てる。
しかし、オレは「コーちゃんって、こんな文章を書くんだ」とちょっと驚き。
自分の中のチヨダ・コーキ像と違ってたもので・・・。
あと、スピンアウト作品だからなのか、登場人物が、なんとなく「スロウハイツ」に住んでいた人々に似ている気がする。
従来の辻村作品と思って読むと肩透かしを食らうかもしれないが、
ファンにとっては、
「辻村深月の世界」の住人になった気になれる一品だ。
直木賞候補になった直後の作品として、その注目度から考えた場合、
もっと辻村臭のあるものを出すべきだったかもしれない。
しかし、そうはせず、こういった
「従来のファンならディープに楽しめる作品」
を出してくれたのは、
辻村深月がファンを大事にしているというのが伝わってくるようで、
なんだか嬉しかったよ。